朝起きると、バッタがいた。
ベッドの足元、埃被った床に張り付く緑の棒。
折り紙で作られたように角ばった関節、外骨格。
茶のフローリングに留まるそれは、異彩を放っている。
私は人並みはずれた違和感を感じている。強烈な違和感を感じている。
ここは502号室。窓を閉め、唯一の入り口を閉じ、私以外立ち入らないはずの502号室に、小ぶりなバッタ。
ただ、部屋に侵入した由来に先駆け、私はこの昆虫の将来を案じていた。
この部屋にはバッタの食せる葉は存在しない。そして、わざわざ飼育はしない。
バッタを小袋の中へ誘導し、502号室から出たところにある小さな庭へ向かう。庭はブロック塀で仕切られ、狭い空間に最大限の生態系を形成している。
バッタを放つ。ブロック塀に留まっている。
私は彼が一歩踏み出す様子を目視しようと試みたが、微動だにしなかったので、502号室へ戻った。