近似トレバ虚構

実験的創出Blog

fast morning|叙事情#9

晩秋の或る日曜の朝七時半、何故か無性に朝マックを食べたくなった。その願望は唐突だった。最近、私の周りで朝マックが話題に上がったという訳でもない。強いて言えば、随分前に会社の同期が朝マックを食べた話をしたことと、先月読んだ大﨑洋の『居場所。…

憤りSeptember|叙事情#8

二〇二三年九月二日、土曜日の朝八時。今日は休日ではあったが、皮膚科に行くため朝早い時間から家を出る。この後、私は少々不本意な経験をした。その経験により、現在の私の人間性が露呈されることとなったため、少し書き留めておきたくなった。 皮膚科まで…

監獄のような教室の先は|夢判断#14

自分を含めた十数人の人間が真っ暗な廊下を歩いている。壁や床は酷く錆びれている。コンクリートか、木造か判別がつかないほど、壁床一面に黒い錆がびっしりとついていた。 廊下沿いにあった一室に入れられる。部屋の正面に黒板があり、それに向かうように机…

舞台と命|夢判断#13

気が付くと、広いホールの席に私が座っている。照明が落とされていて辺りは薄暗く、目線の先にある舞台だけが光を放っていた。私の目にそれは小さく映っていることから、自分が最後列近くに座っていることが分かる。舞台ではまだ何も行われておらず、まばら…

粒子の旅路(四)|夢判断#12

とても長い年月が経ったように思えた。意識を取り戻した私は目を開ける。しかし、目を開けても映るのは暗い闇だった。肌の感触から地面は砂であることが分かる。大気は冷たかった。上を見上げると、三日月よりも細い月が浮かんでいる。夜になっていた。辺り…

粒子の旅路(三)|夢判断#11

この国に来てから、私は宿泊について何も考えていなかった。しかし、あの食堂で私と談笑していた男性が偶然にも民宿を営んでおり、今日は空いているからうちに泊まっていけと言うのだ。なんという幸運。私は喜んでお願いし、民宿まで案内してもらった。民宿…

粒子の旅路(二)|夢判断#10

私は市場からそう遠くない食堂で腹ごしらえをしていた。木造の建物、吹き抜けの開き戸。西部劇からそのまま出てきたような店である。先ほどまでの市場とはまた違う世界に来たようであった。客と談笑しながら水を飲んでいると、これまた西部劇よろしく気性の…

粒子の旅路(一)|夢判断#9

気づけば、私は飛行機に乗っていた。窓際の席に座っており、外を眺めると雲海が果てしなく広がっている。さらに、辺りを見渡しても日本人は一人もおらず、日本語すら目に入らない。どうやら、すでにどこか日本以外の国の空港から乗り継いでいるらしい。せめ…

夜の月 夕方の月 朝の月|歌詠み#4

陸地より海にゆだねるほうが楽だからぜんぶ海になっちゃえ 赤くなる万能センサー 僕の肌 ニュースも言わない一月の花粉 夜の道 こすれ合ってる男女の手 早くつなぎな もどかしいから 河畔にて木陰に寄り添うカモの群れ 人間にはない冬景色かな フンが落ち 見…

世界の証拠(下)|叙事情#6

四階に着き、一通り歩いた。何度か人にぶつかりそうになった。それだけ私の歩幅は広く、歩く速度は高まっていた。私の中で確かな情熱を感じている。その情熱は冷たかった。熱く燃えたぎる炎ではなく、周囲の熱を奪って凍らせる冷たい炎。冷たかったが、今の…

世界の証拠(中)|叙事情#5

二人を追い抜いたところからはそう離れていないため、しばらくこの辺りで待っていればそのうち来るはずだ。ただ、今いる場所は障害物が多く、二人が歩いてくる方向が見渡しにくかったため、場所を探すことにした。そう思って手前を見た途端、すでに二人が目…

世界の証拠(上)|叙事情#4

明日、明後日に開催を控えるとあるイベントの会場設営を手伝いに来た。私が属す団体からの参加者は自分含め三人。一つ上の男性の先輩と、もう一人は今日初めてお目にかかる女性のNさんであった。私は途中までNさんを主催者側の人間だと思っていたが、先輩…

愚民ばかりでグミばかり|叙事情#3

私はグミが好きだ。疲れた日の楽しみはコンビニで新作のグミを買うことだ。ただ、今売られているグミのほとんどをすでに食べたことがあると言っても過言ではない。子どものときからお菓子は決まってグミであった。チョコレートやスナック菓子を好む男児が多…

溶けかけの飴|歌詠み#3

腐っても腐ってもなお味が出る それは腐りと言えるのだろか 横ならび「月がきれい」とポツリ出る 今のは文字通りの意味だから そこの木さん あなた千年生きたくて生きたの? 「レトロ」の箔をおしたとき それは「さびれ」の隠れ蓑 カルピスと傷とゲームとラ…

境界|出力#11

「俺この前あれみた。『すずめの戸締まり』」 「お、俺も見た。めっちゃよかった!」 「な、よかったよな。N樹もみた?」 『いや…見れてないんすよね』 「そっかーじゃあんま話すとネタバレになるなー、めっちゃ良いからみてみ」 『あぁー、見れたら見てみ…

人知れずサーカス|歌詠み#2

仏になるため旅に出たあの人をクマに見立てて帽子をかぶせて 一年が十年ぐらいに感じてた 今は五か月ぐらいだもんな 生きるたび積み重なってくもどかしさ できれば償わせてください 罪 顔上げて風呂が冷めてる午前二時 目覚める以外は死ぬのといっしょ ねむ…

わたし橋|歌詠み#1

冷蔵庫ヴォォンと音が響くのは まだ寝てるのか午前6時 透明の計量カップよどこにいた もう食器を片付けたのに 私がさ あと30センチ左にさ ズレたら死ぬのさ右側通行 珈琲と醤油をならべてのぞいたら見分けがつかない 混ぜてもいいか 鼻水がサラサラしてる…

流血|叙事情#2

すっかり日の落ちた夜、私は自転車で帰路についている時であった。ゆるやかな坂を下っていくと、車道と歩道の境界に数人集まっているのが見える。白髪の男性が横に倒れ、傍には自転車も倒れており、それらを男性二人が囲んでいた。明らかに異様である。さら…

過去の望み|思索#1

過去の望みが叶うことを望まないのは、我儘と見なされるのだろうか。「過去」というのは数日前や数か月などのものではない。数年前、数十年前の自分が抱いていた望み。それが時を経て叶う。例えば、小学生の時に抱いた「宇宙に行く」という夢が叶う。より俗…

受け身消費|出力#10

仕事から帰宅した。ようやく自由な時間を過ごすことができる。 おもむろにスマホを手にし、Twitterでトップに表示されたニュース記事を辿る。時事を一通り確認し終えたら、ソファに座ってYouTubeを開き、登録チャンネルの更新動画を一つ見て、そこから関連動…

秋の桜|現像#7

「桜」という言葉には、色が定着している。「桜色」という言葉があることがそれを証明している。その色とは、当然、春に咲かせるサクラの花の色である。サクラの花が満開に咲き誇る様は、春という季節を代弁するものとなり、時に「日本」を象徴する光景でも…

はけ口|叙事情#1

「…はい。K教授による鍾乳洞の保全に関するお話でした。ありがとうございました。ここから、参加された皆様からのご質問を受け付けます。すでに時間がおしてますので、ご質問はお一人様一つとさせていただきます。」 私は現在取り組んでいる事業の関係で、…

宇宙と生|夢判断#8

先ほど、ミサイルの発射に成功したとの報道を目にした。ここ数年、地球では惑星間ミサイルの開発に勤しんでおり、いつ実践投入されてもおかしくない段階に来ていた。 かつて、地球でしか生息できなかった人類その他の生物は、今や太陽系の至る所に点在し、そ…

置き去りの愛|現像#6

「じゃあね。ごめん」 彼女の背中が、遠くなってゆく。僕はそこから立ち上がることができなかった。ただ、僕の心は彼女を追いかけたい、離れたくないと願っている。体は微動だにしなかった。 僕にとって、誰かと恋仲になったのは彼女が初めてであった。自分…

公園の「場」|出力#9

いつ頃からか、気づいた時には、公園に足を踏み入れ難くなっている自分がいた。 子どもたちが遊んでいたり、学生服をまとった若者が談笑していたり、子ども連れのママ友同士でベンチに座っていたりする姿を見ると、公園へ入る気持ちが冷めてしまう。まるで、…

生きやすい体|解釈#4

この体はとても生きやすい。背が高く、高い所に手が届く。身体が細いため、人混みでも通り抜けやすい。腕が長いため、床に何かを落としても、姿勢を崩さず取ることができる。指先が細いため、何事も器用にこなせる。体重が軽いため、長時間立っていても辛く…

交響的セミナー論|出力#8

会社の先輩に勧められ、私はとあるセミナーに参加した。聞いた話では、今回の講師はこの界隈では名高い人らしく、国会に参考人として招致されたこともあるとのことである。二百席ほどある会議室を、空き一つなく埋め尽くしている様子からも、その有名さを伺…

重い腰を上げる|出力#7

重い腰を上げるのに、実に体感一時間ほどかかった。実際には十分とて経っていないはずであるのだが、十分のランニングが普段の生活一時間分の消費カロリーであるがごとく、この腰を上げるまでの十分間、私の心、体、脳は忙しく駆け回っていたのであった。 き…

悪魔島|夢判断#7

人間十数名が島へ流れ着いた。私もその一人に含まれていた。その島には悪魔が棲み着いており、人間を見つけては喰らう。体型は小振りなものから大型の、それこそ人間離れしたものもいた。みな皮膚が赤く、血の色をしていた。 我々はその悪魔どもと対峙せねば…

無“関係”|現像#6

"物事"から離れたかった。 この世界に生起する全ての物事は"他"によるものであり、"自己"が生むものなど存在しないことを私は悟った。私の人生は"他"との関係よって構成され、定められ、(その終わりさえ!)自分で決められるものは一切ない。「自由意志」など…