私は市場からそう遠くない食堂で腹ごしらえをしていた。木造の建物、吹き抜けの開き戸。西部劇からそのまま出てきたような店である。先ほどまでの市場とはまた違う世界に来たようであった。客と談笑しながら水を飲んでいると、これまた西部劇よろしく気性の荒そうな男が三人ずかずかと入ってきた。金髪のパンチパーマと、ドレッド、そしてスキンヘッド。カウンターにずしりと腰掛けるなり、マスターを呼び出す。
「ジャックダニエルだ、さっさと出せ」
「ジャックダニエルはうちには無いよ。ウイスキーが欲しいのかい」
「それも置いてないよ、ここは酒場じゃないから酒は限られてるんだ」
「ふざけんな! 客を舐めてるのか‼」
金髪の男がマスターの襟を掴んだ。他の客は怯えている。私と会話していた男性が小声で教えてくれた。
「あいつらはきっとここらを縄張りにしているギャングの一員だ。おそらく下っ端だな。上の奴ならこんなちっぽけな食堂で騒ぎを起こしたりしない」
私が彼らを観察するように見ていたからか、マスターを掴んでいる男と目が合った。嫌な予感がよぎる。
「なんだテメェ、文句あんのか」
その言葉をぶつけられた途端、何故か闘志が燃え上がってきた。よそ者はよそ者らしく羽目を外してみよう。彼らが動く前に、私はその一人へ猛烈なラグビータックルを仕掛けた。体格では負けているが、油断していたらしく腰を掴まれた男はバランスを崩して地面へ突っ伏した。
「こいつ! やりやがったな!」
「ぶっ飛ばしてやる!」
他の二人が金髪男とともに倒れた私を乱暴に立たせ、ドレッドから一発お見舞いされる。私は二メートルほど吹っ飛ばされた。すぐさま私を立たせようとスキン男が胸ぐらを掴んだ隙に、私はそのハゲ面に頭突きを喰らわせる。髪がある分、私へのダメージは緩和される。スキン男へ追い打ちをかけようと拳を振り上げるも、いつの間にか立ち上がっていた金髪男にその腕を掴まれ、羽交い絞めにされた。ドレッドから顔面に一発、スキン男から腹に一発もらう。もう駄目だと思った矢先、何者かがスキン男に飛びかかった。さっき私と話していた男性だった。
「よくも崇高な食事の時間を荒らしやがって!」
そうだそうだと言わんばかりに、周りの男たちが金髪やドレッドにも掴みかかる。女性や子供も離れた場所から空き缶やゴミを投げつけていた。気が付けばマスターまでもが加わっている。
「何だお前ら! クソッ離せ!」
そんなことを口々に叫びながら三人の男は店の外に投げ飛ばされる。惨めに地面に這いつくばる男どもにマスターが叫ぶ。
「二度と来るんじゃねぇ! 悪ガキどもが!」
三人の男はよろよろと立ち上がり、何も言わずにその場を離れていった。それら一連の間、私は床に倒れていたが、三人の男が去った後に客たちの助けを借りて立ち上がれた。
「ありがとう、君が先陣を切ってくれたおかげで迷惑な奴は当分うちに来なさそうだ。今日は好きなものを食べていってくれ! 私からのサービスだ」
マスターはそう私に声をかけてくれ、周りの客も拍手で讃えてくれた。
いつしか外は暗くなり、店は宴の場と化していた。マスターはどんどん酒を振る舞う。なんとジャックダニエルもモーターヘッドも揃ってるじゃないか!
「あいつらの態度が気に入らなかったから出さなかったんだ。結局、あの騒ぎは私のせいだったというわけだな、ワッハッハ!」
そう笑い飛ばすマスターも肝が据わっている。もっとも、私は酷い目に合わされたわけであるが。しかし、私も酒が回っており、マスターとともに腹を押さえて笑っていた。