現像
「桜」という言葉には、色が定着している。「桜色」という言葉があることがそれを証明している。その色とは、当然、春に咲かせるサクラの花の色である。サクラの花が満開に咲き誇る様は、春という季節を代弁するものとなり、時に「日本」を象徴する光景でも…
「じゃあね。ごめん」 彼女の背中が、遠くなってゆく。僕はそこから立ち上がることができなかった。ただ、僕の心は彼女を追いかけたい、離れたくないと願っている。体は微動だにしなかった。 僕にとって、誰かと恋仲になったのは彼女が初めてであった。自分…
"物事"から離れたかった。 この世界に生起する全ての物事は"他"によるものであり、"自己"が生むものなど存在しないことを私は悟った。私の人生は"他"との関係よって構成され、定められ、(その終わりさえ!)自分で決められるものは一切ない。「自由意志」など…
ずっと鳥になりたいと想っていた。 鳥のように気ままに空に浮かべられたら、どんなに楽だろうか。 鳥の気も知らず、鳥になりたいと想っていた。 弱肉強食、食物連鎖の知見を得て、少しは鳥の目を持てるようになった。 鳥への憧れは潰えなかった。しかし鳥も…
五年前、私は海辺で夏の終わりを感じていたはずだった。"晩夏"を感じていたはずであったのだ。 近場の海へ行き、その夜に友人らと花火を楽しんだ。晩夏を感じたのはその片付けの最中であったと思われる。 私は今、「晩夏」を主題として語られているため、特…
目。 目。 眼。 -。 目。 目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目。
朝起きると、バッタがいた。 ベッドの足元、埃被った床に張り付く緑の棒。 折り紙で作られたように角ばった関節、外骨格。 茶のフローリングに留まるそれは、異彩を放っている。 私は人並みはずれた違和感を感じている。強烈な違和感を感じている。 ここは50…
奇妙な光だった。 辺りを藻のごとく、べたべたと塗りたくるように緑を照らす。 その照明は狂気的な発光をしていた。直視すると目が焼ける。 ふと自分の前に立つ男から生える影を見る。ーーー赤い。 確かに彼の陰の足元は赤く染まっていた。付近にいる人々の…