近似トレバ虚構

実験的創出Blog

五年前の晩夏|現像#4

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五年前、私は海辺で夏の終わりを感じていたはずだった。"晩夏"を感じていたはずであったのだ。

近場の海へ行き、その夜に友人らと花火を楽しんだ。晩夏を感じたのはその片付けの最中であったと思われる。

 

私は今、「晩夏」を主題として語られているため、特別に晩夏の話とすることができる。しかし、普段であればこの話は「あの年の夏」と思い出すだろうと思われる。わざわざ「あの年の晩夏」とは思い出せないはずだ。

立春”、”初夏”、”晩夏”、”初冬”。これらいわゆる”季節中の季節”とも呼ぶべき期間は、時を経て”春夏秋冬”に吸収される。五年前のこの晩夏も、今やその年の”夏”に収束してしまった。記憶にも、ぼやけが生まれるはずである。

 

晩夏は現在に依存している。”季節中の季節”はこの年の今しか味わえない。数年後にはきっと存在していない、過去にすらなりえない季節。

”現在”とは、それだけ貴重なものであるのだ。