近似トレバ虚構

実験的創出Blog

宇宙と生|夢判断#8

 

 先ほど、ミサイルの発射に成功したとの報道を目にした。ここ数年、地球では惑星間ミサイルの開発に勤しんでおり、いつ実践投入されてもおかしくない段階に来ていた。

 

 かつて、地球でしか生息できなかった人類その他の生物は、今や太陽系の至る所に点在し、それぞれの惑星で独自の文明を発達させていった。最近では、生息範囲を銀河系へ広げる計画が進められている惑星もある。ただ、近年は度重なる宇宙における利権問題、さらに「排他的経済宙域」の問題が発端となり、宇宙連合会内での各惑星の語調が強くなり、外交が上手くいっている惑星は一つとしてないという状況にあった。既に武力行使に出ている惑星もあり、地球はすでに四惑星と同時に戦争の最中にある。かつては陸上、海上、空中(高度一万―二万メートル程度)でしか戦闘を行えず、民間人の犠牲が避けられないという馬鹿げた話を耳にするが、もちろん今では他に危害を与えるリスクの低い「宙域」で戦闘を行う。宇宙戦闘機、宇宙艦、宇宙砲台、白兵戦用宇宙服、レーザー銃など、かつてSFで描かれていた光景が再現される時代である。

 

 ただ、惑星間の技術力には大きな差が無いことから、いずれの戦争も消耗戦と化していた。そこで、「宇宙連合憲章」において厳しい指摘がなされている「核の使用」に踏み切ろうとする惑星も出てきた。地球もその一惑星である。核に関しても、その殺傷能力は昔よりはるかに増している。中には、一惑星を壊滅させる程の威力を持つものもあると風のうわさで耳にした。行動範囲が宇宙に広がったことから、存分に実証実験を行えるようになった恩恵である。しかし、拠点惑星から戦闘領域まで核を輸送することは、暴発などのリスクも加味して、行われることはまだ無かった。そこで、拠点から相手拠点へ直接核をぶつけられる惑星間ミサイルの開発が進められた、という経緯である。陸上での弾道ミサイルのように、真っ直ぐミサイルを飛ばすことは、宇宙においては重力の関係で難しいことから、衛星を飛ばすように、まずは楕円軌道を描くように拠点惑星の周りをミサイルが飛ぶことで加速度を高め、一周ごとに軌道を徐々に大きくし、目標へ到達させるという仕組みである。そのミサイルの打ち上げが、先ほど地球において成功したということである。

 

 ミサイルの現状は携帯デバイス内蔵のアプリケーションで誰でも確認することができる。数多の衛星が地球周辺に弧を描いている中で、赤い印で目立つミサイルが、他のどの衛星よりも高速に移動していた。ミサイルの名は‟Roana‟、きっとミサイル開発チームの責任者が自分の娘の名でも付けたのだろう。

 

‟Roana‟が二周目に差し掛かろうとした途端、突然‟Roana‟周辺で異様なユニコーンのようなマークが瞬間的に現れ、‟Roana‟を横切った。‟Roana‟を示すマークは消えた。その瞬間、デバイスから尋常でない警告音が鳴り響き、周りにいた人々のデバイスも同じ音で鳴き、街のあらゆる画面が緊急速報に切り替わった。その内容が明るみになった瞬間、人々は叫び、喚き、狂い、泣き崩れ、空気は絶望の味がした。私は空を見て、遠くを見た。目に届く範囲で、高層ビルの高さにもなる紅く、どす黒く、確実に質量を持った〝何か〟が迫って来ていた。その瞬間、私は、生きることを諦めた。傍にいた家族を抱きしめた。最期に何をすべきか、文字通り〝必死に〟考えた。

 

 

すでに時間は無かった。私は家族一人一人へ接吻した。その瞬間だけは、確かに「時間」は無かった。私は時が過ぎるのを感じないまま、無限に時が流れている中で、愛する者を抱擁し、接吻したのだ。いつまでもここに留まれるような気がした。いや、実際に留まっていた。この時間も、空間も、物質も、質量も、あらゆる概念が存在しない、「存在しない」ということすら存在しない〝ここ〟で、私と愛する者だけが〝いる〟。その儚い感覚だけを抱いて、ただ永遠にここで生きたかった。