近似トレバ虚構

実験的創出Blog

洞穴の底で|夢判断#3

 

 

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気が付くと、私は暴走するトラックに乗っていた。

車内をぐらぐらと揺らしながら、斜面を下るように森の中を駆けている。

車には運転席に私一人。いや、もう一人いたような気もするが、一人でいる感覚であった。私は確かに運転席にいたのだが、アクセルはおろか、自分がハンドルすら握ってないことに気づく。今、森を下っているこのトラックは、自動落下さながらの状態なのだ。どう考えても、すぐにハンドルを握って運転すべきであるのだが、脳はその行動を許さない。今回の夢は何を私に与えるつもりなのか。(”夢”と言ったが、今回私は目覚めるまで夢と自覚していなかったらしい。)

 

トラックは森の中を闘牛のように猛烈に進む。よく木にぶつからないものだと感心するほどである。ふとした瞬間、目の前に洞穴が現れた、と思った時には、既に穴に突っ込んでいた。普通の洞穴ではない。森の斜面よりもさらに急角度で下っていく。下ると言うより、今度こそ”落ちて”いる。辛うじて、タイヤが地についているが、ほぼ真っ逆さまに穴の奥を突き進み、すぐさま底へぶつかった。

流石は夢である。致命傷の衝突と思われたが、私は何事も無かったかのように車を降り、車体を手で押して地上へ上がろうと試みている。この決断力と行動力の早さは、夢を鑑賞している現実の私も見習いたくなった。

 

夢であるため車体の重さなどは関係なく、ある程度の荷物を載せた台車で運ぶ感覚でトラックを押し上げていく。その時、地上から車体が降ってきているのを確認した。一台ではない、二台である。ただ、先ほどの私のように制御できていない状態ではなく、ブレーキをかけつつ徐々に降りてきているようであった。当然のごとく、私は止めるべく呼び掛ける。じわじわと進んでくる。呼び掛ける。じんわり近づいてくる。呼び掛ける。ふわっと、ぶつかってきた。

そのソフトな衝突とは裏腹に、夢の中の私は激昂していた。それまで押し上げたトラックを放棄して底に転がせ、二台の車の主へ掴みかかろうとした。向こうは大人数であった。推定六人、肌が黒く、民族のような恰好である。認識不可な言語で、向こうも反発、激昂する。我々は取っ組み合いになった。我々と言っても、私一人と六人が対峙している状況である。

ここで一度夢は途絶えている。

 

私は洞穴の入口に歩いて辿り着いていた。辺りは森ではなく、視界の開けた集落のようである。砂漠の中にあるようにも見えた。トラックで突っ込んだ時とは、明らかに異なる風景だ。穴の中で別の道を進んでしまったのか。

その集落でひときわ目を引くものがあった。何やら見世物が行われている。十人ほどの観衆が見ているのは、裸の小太りな男。観衆がみな黒い肌であるのに対し、裸の男はアジア系の黄色肌をしていた。細い目ににやついた口元、小太りな体形から、その男は恵比寿様のような見た目をしている。福耳の無い、裸の恵比寿様。察するに、観衆の方は現地人で、裸恵比寿が外部の者、良い待遇を受けているようには見えなかった。


裸恵比寿は体をもじもじさせ、観衆を見据えていた。対する観衆はけたけたと笑い、手には白い煉瓦を持っている。次の瞬間、観衆がその煉瓦を男に向けて一斉に投げだした。裸恵比寿はピエロのように小躍りしながら飛んでくる煉瓦を必死に避けようとする。しかし、とても避けるのが上手いようには見えない。直撃することは無いが、豪速球さながらに投げられた煉瓦が露出した肌を削り、時に踏みつけるように裸足を打ち付け、それに構わず観衆は次々に煉瓦を投げる。その投げる観衆を見る観衆も集まってきた。

これがこの集落での娯楽だと確信した。裸の男はおそらく奴隷か何かで、観衆はそれに煉瓦を投げつけ弄ぶ。また、白い煉瓦を投げる演出は、一瞬の力自慢の働きも果たしていた。腕に自身のある大柄の男たちが、その投げる姿を観衆に見せつけ、注目を浴びる。参加するのも、見るのも両方楽しめるというわけだ。

 

私は憤っていた。無数の白煉瓦が飛び交う裸恵比寿と観衆の間に飛び出した。そこで、男にぶつかる最中の煉瓦を一つつかみ取り、一思いに観衆の方へ投げつけた。